マリ 『今日はおにぎりじゃなくて、ミスド(ミスタードーナツ)にしたよ!』
夕子 『タカさんが食べたいって言ってたもんね。』
午前9時、マリは夕子の家まで車で迎えに行って、2人はゴルフ場へ向った。
マリ 『新しいゴルフ場楽しみ♪』
夕子 『まだあまり知られてないから、すいてるし、綺麗らしいよ』
車はバンコクから1時間程度走った、とあるゴルフ場に到着した。
キャディーが待ち構えたように車のトランクからゴルフバッグを取り出す。
マリ 『いや〜!私のキャディーさん、また男性やわ。
まあ、男性はいろいろアドバイスしてくれるから、いいか。』
タカ&ミチ 『お疲れ!レストランで待ってるね』
今日は友人のタカ&ミチの男性2名と、マリと夕子の女性2名でのラウンドだ。
マリ 『今日こそはスコア120台を目指すぞ!』
まだ初心者で今回がラウンド3回目のマリはそう意気込んで、
夕子と共にロッカールームへ入っていった。
着替えが終わった夕子は、
『先に行ってるね』
そう言ってタカたちのいるレストランへと先に向かった。
マリ 『うん、私、日焼け止め塗ってから行くね』
最近ゴルフを始めたマリは、自慢の白肌がだんだん小麦肌になっているのを見て、
なんとか日焼けを阻止しようと、ラウンド前に念入りに「アネッサSPF50++」を塗っていた。
『しみいっぱいできてきたわ・・・ヤバイ』
そんな風につぶやいていたマリ。
そのとき・・・・
バタン!!
日焼け止めを塗っていたマリが突然倒れた。
・・・何があったのだ?
倒れたままの状態で動かない。
掃除のオバサンが心配そうに駆け寄って、起こそうとするが、
マリは、『さわらないで・・・』
そうつぶやいて・・・5分ほど倒れたままだった。
マリはなんとか自力で立ち上がった。
自分が持ってきた「ミスド」を皆に食べさせてあげたくて、
ふらつきながら、マリはレストランへと向かった。
マリ 『これ、ミスド』
倒れた時に打った左腕をおさえながらマリはミスドの箱を渡した。
皆 『ありがとう!どうしたん?肩痛いの?』
マリ 『うん、さっきコケて、肩痛いねん。頭も打ったみたい。ゴルフできるかな・・・』
タカ 『タイガーバームあるか聞いてくるよ、塗ったら少しマシになるかも』
さすが、タイ。どこにでもあるタイガーバーム。
タカがゴルフ場のフロントから、効きそうな匂いのそれを借りてきた。
マリ 『更衣室行って塗ってくるね』
マリはもう一度ロッカールームへ戻っていった。
夕子、タカ、ミチの3人は、マリの買ってきたミスタードーナツをほおばっていた。
タカ 『3年ぶりのミスドや!うまい!』
すると・・・
「トゥルルルル」
夕子の携帯電話が鳴った。
夕子 『はい、もしもし?マリちゃん?』
目と鼻の先にあるロッカールームからマリが電話をかけてきた。
マリ 『うん。』
夕子 『どう?タイガーバーム塗った?』
マリ 『夕子さん、私、どうしてここにいるの?ここはどこ?』
夕子 『え?マリちゃん、大丈夫?すぐ行くからじっとしててね』
夕子はゴルフ場のロッカールームに走り、ベンチに座っているマリのそばに駆け寄った。
夕子 『マリちゃん、どうした?』
マリ 『何か分からへん。記憶ないねん。ここどこ?』
夕子 『マリちゃん・・・!!
よっしゃ、病院行こう。じっとしててね』
夕子はテキパキと荷物をまとめ、マリを連れて荷物を持ってロッカールームを出た。
心配そうに待っていた、タカとミチに、夕子はこう告げた。
『病院行くで!マリちゃん、記憶ないんだって!』
タカとミチも急いで荷物を取りに戻った。
夕子 『マリちゃん、運転手呼べる?』
マリ 『うん。』
マリは記憶がない、と言いながらも、自分の運転手に電話をかけ、すぐに来るように伝えた。
そうして4人は2台の車に別れてバンコクの病院へと向かった。
車の中で、マリは、
『私、もしかしてコケた?どこで?』
と何度も尋ねた。
頭を強く打った衝撃で、また肩を負傷したダメージで、新しい記憶ができないのだ。
夕子は 『ゴルフ場だよ。』
と答えると、
マリは、『そうなんだ、あ、本当だ、私、ゴルフの服着てる。』
自分の着ているゴルフウエアを見て驚くマリ。
そして、2分後に、また、
『私、もしかして、コケた?』と聞く。
マリは、病院に着くまでの1時間、同じ質問を100回以上繰り返した。
倒れてからの記憶がないので、自分がどうなったのか理解できない。
分からないから不安でたまらないのだ。
頭の記憶する部分に障害が出ているため、聞いても聞いても覚えられない。
だから、また同じ質問をする。
答える方の夕子は、根気良く、いろんなバリエーションを加えて、
『ゴルフ場のロッカールームで転んでね、肩も怪我したでしょ?』
などと答えてくれた。
マリは、自分の肩を触り、『あ、本当だ、痛い。私コケたの?』と繰り返す。
時々、マリはこうも言った。
『私ね、夕子さんのことは分かるねん。』
夕子 『そう、それは良かった』
マリ 『けどね、何か長〜い夢を見てた気がする。やっと正気に戻った』
夕子 『本当?』
マリ 『私、もしかしてコケた?』
こうやって会話がぐるぐる回っていった。
唯一の救いは、友人の顔や自分のことまで記憶を失っていなかったことだ。
病院に着いた。
タイ語が堪能な夕子は、受付に症状を説明する。
マリはICU集中治療室に運び込まれた。
車椅子に乗ったマリは、
『え〜?こんなのに乗るの?』
と若干無邪気な声を出した。
マリは、部分的な記憶を失ったものの、名前や生年月日ははっきりと正確に答えた。
ただ、住所のサービスアパートの部屋番号だけが・・・
「何番だっけ・・・?たぶん、502です。」と答えたが、
後で確認したら、「605」だった。
ICUではすぐさま、CTスキャンで脳の検査が行われた。
幸い、出血もなく、異常もない。
肩のレントゲンも撮った。
鎖骨骨折。
2ヶ所ひびも入っている。
なんちゅう豪快なコケ方をしたものだ。
検査が終わって出てきた、マリに、ミチはこう言った。
「マリちゃん、俺が旦那やで」
マリ 『絶対ありえへん!』
こうはっきり答えたらしいが、マリはまったく覚えていない。
即座に全否定して、皆を笑わせたらしい。
・・・・3時間ほど眠り、その日の夕方、マリが目を覚ますと・・・
枕元に、タカと夕子がいた。
集中治療室の中には、マリの部下たちもいる。
マリはやっと本当に正気に戻ったのだ。
『私、どうしたの?』
経緯を説明されて、納得し、もう同じ質問はしなくなった。
体中に点滴や心電図の管が巻きついている。
「なんということに・・・」
マリは心の中で嘆いた。
泣きたくなるのをぐっとこらえた。
『これ以上、アホになったらどないしよ・・・、あ、逆にかしこくなるかも』
関西人のマリは、こういうときでも、皆の前で、ボケる真似事をする。
そばにあった携帯電話には、日本にいる社長や上司から着信が何度も入っている。
マリの部下が連絡したのだ。
まだ頭がボーっとしている状態で、電話かける。
『大丈夫です。ちょっと脳震とう起こしたみたいで。
まあ、これ以上アホにならんかったらいいんですけど』
何人に電話したか覚えていないが、同じようなことを繰り返して話した。
母だけは、娘のただならぬ様子に死ぬほど心配し、すぐにタイに飛ぼうとしていた。
それにしても、不思議なことに痛みがないのだ。
主治医が来て、鎖骨が骨折していること、記憶を失っているが、眠れば回復すること、
今後、記憶の障害はなくなり、思い出すようになる、などの説明を受けたが、
まだ、自分のことではないようだ。
確かに腕を上げると少し痛いが、じっとしていたら痛みもない。
それに、ゴルフ場に着いてから病院で目が覚めるまでの記憶が
一切ない。
道中何を話したか、何を言ったか、病院でどんな検査をされたかもまったく覚えていない。
もう一人の自分がどこかにいるような感覚だ。
マリは、とにかく、一番の心配事である、仕事を一生懸命思い出そうとしている。
月曜日、火曜日、水曜日、アポイントは何があったっけ?
昨日、あの報告書はメールで提出したんだっけ?
とにかくここ数日の仕事の記憶も途切れている。
連絡を受けて飛んできた、マリのスタッフたちにテキパキと指示し、
スケジュール帳や、メールを確認できる携帯電話などを持ってきてもらった。
その日は眠った。
そして次の日。
朝、朝食が運ばれてきた。
食事に定評のある病院の、美味しそうな和定食だ。
ずっと食事していなかったのでお腹ペコペコ。
早速食べようとした瞬間、脳神経外科の主治医がやってきて、止められた。
『骨折した鎖骨を手術するかもしれないから、まだ食べてはいけないよ』
え〜?!
手術?!
そ・そんな・・・。
整形外科の先生が来るまで、マリは神さまに猛烈に祈った。
「神さま、どうか手術しなくてすみますように」
いかにも頭の良さそうな、真面目そうな整形外科の先生が来た。
その先生は、マリの救いを求めるような目つきを優しく受け止めて、
レントゲン写真を見せてくれた。
『鎖骨のこことここが折れていますが、まっすぐつながっているので、
手術しなくて大丈夫ですよ』
あ〜、神さま、ありがとう!
やっと食事にもありつけた。
事故のあった当日以外の記憶もほぼ、戻ってきた。
マリは、鎖骨骨折1ヶ所、ひび2ヶ所、という大怪我をしたにもかかわらず、
痛みをほとんど味わわなかった。
いや、味わったはずだが、あまりの痛さに記憶を抑圧してしまって、
無意識に思い出さないようにしているのかもしれない。
思い出そうと頑張ってみたけど、無駄な努力はやめた。
ドクターも、思い出せないのが当たり前、と言っている。
ドクターに、『元々記憶力が悪いのに、これ以上記憶力悪くなったらどうしたらいいですか?』
と、すがるように尋ねた。
ドクターは、優しい笑顔で、心配ないよ、大丈夫だから。と言ってくれた。
それから驚異の回復力で、4日目に退院した。
ドクターは、ICUで24時間監視付きで1週間、その後、一般病棟へ入院させる。と言っていたが、
4日目のマリの様子を見て、
『明日退院してよし』と許可してくれた。
マリのタイ人の部下たちは、土日も病院に張り付き、
マリの記憶が戻るたびにオフィスと病院を往復して書類など持ってきてくれた。
仕事も一生懸命フォローし、尽くしてくれた。
そして、友人たちは、活字好きのマリのために、
日本の値段の3倍はする文庫本をどっさり買ってきて、
身の回りの世話をしてくれた。
人って温かい。
本当にありがたい。
元々体が丈夫なマリは大病も大怪我も経験がなかった。
それだけに周りの人たちに助けられることがこんなにも有難いことなのか・・・。
身にしみて分かった。
ここではその感謝のほんの一部しか表現できていない。
これから何かの形で恩返ししていこう。
そして、何よりも、痛みを忘れさせてくださった神様に感謝したい。
頭を守ってくださった神様に感謝したい。
あのまま記憶ができない脳になっていたら・・・
韓国映画の「私の頭の中の消しゴム」状態にならなかったことに、
心の底から感謝したい。
母を悲しませなかった(心配はかけたけど)ことに感謝したい。
右腕を守ってくださって、それほど不自由しない程度にしてくれた神様に感謝したい。
手術しなくてすむようにしてくれた神様に感謝したい。
今、元気に(怪我はしているが)生かしてもらっていることを感謝したい。
家族や大切な周りの人ではなく、私に降りかかったことに感謝したい。
そして、また仕事ができるこの喜びに感謝したい。
とにかく、すべてに感謝したい。
神さま、守ってくださって本当にありがとう。
マリは幸せな気分にひたりながら・・・眠りについた・・・。
=あとがき=
今回は小説風に書いてみましたが、いかがでしょうか?
登場人物は全て仮名ですが、この話はノンフィクションです。マリ(仮名)=メーテルです。
2007年11月10日、午前10時頃、事故は起きました。いまだに倒れた原因は分かっていません。
メーテルの予想では、新しい施設で床がツルツルだったそうなので、恐らくすべって転んだと・・・。ドクターは、めまいや、てんかん、の可能性もある、と言っていましたが、
「私、本当にドン臭いな・・・」とも何度も言っていたそうだから、転んだに違いない。
冒頭の夕子さん(仮名)の家に迎えに行ったことも、ゴルフ場に到着したことも記憶になく、(ミスドを買ったことは覚えている)
ここに書いている会話も、すべて、一緒にいた友人の証言を元にしたが、
ところどころ、「そういえば、そんな発言したかな?」とおぼろげに思い出すこともあった。
そして、明日の夜から日本に一時帰国する。
元々は、香港に寄ってから帰国する計画だったが、香港はキャンセルし、日本のみの出張になった。
会議出席や、顧客訪問など、名古屋や滋賀の出張も、すべて予定通りこなす。
皆さん、ご心配なく。
しばらく更新できませんが、本当に心配しないでくださいね。
また元気にタイに戻ってきて、忙しくしています。
メールやコメントのお返事がなかなかできなくてごめんなさい。
ヨーロッパ旅行記はまた落ち着いたら書きますね。
バンコクの自宅にて
メーテル著
よかった♪少しは元気が出たのかな??
それともやっぱり無理したのかな???
いや、私たちメーテルファンを心配してくれたのですね

いつもの元気が戻るまで、お待ちしてますのできちんと治してくださいね!
お医者さんの言う事きかないとダメですよ!!
ほんと、お大事にね・・・

あちこち出張もしていたし、
不死鳥メーテルでも羽を休めないと、
コケることがあるだろうね。
強い人ほど、無理がきくから、自らやすまないとだよね。
最初から、主人公が誰だか読めたけど、
小説調で楽しませてくれるサービス精神、
恐れ入り屋の鬼子母神ですね。
take good care of yourself
でも、OPもせず、ICUも早々に退室され、4日で退院とは驚きです。
CT上、問題ないということはもしかして、TIA(一過性脳虚血)であったのかもしれません。(これは突然意識を失ってしまいます。そのとき転倒し、骨折されるケースが多いようです。てんかんや脳疾患がない場合は経過観察となります。)
気付かないうちに、ストレスや疲労が蓄積していたのでしょう。
そして、きっとメーテルさんのことですから、少しくらいの体調不良でしたら無理をされるはず。神様は、メーテルさんはこうでもしないと休まない!そう、思われたのかも知れません。でも、すべて、今後の人生に差し支えのない程度に。
今回の記事は私も考えさせられました。ありがとう。無理をしないようにします。
メーテルさん、お大事に。
しばらくゆっくり休まれたほうがいいのでは?
たまにはゆっくりしてくださいね(^_^)
ご多忙なので、神様が休むようメッセージをくださったのだと私も思います。
どうか、無理だけはなさらないでくださいね。
お大事に(;_;)
あとがきを読んで「ご本人とはっ!!」と驚いてしまいました。
ご無理なさりませんよう。。。
お大事に!
そんな大変だったなんて・・・。小説風に描いてる場合ではありません。
今回はゆっくり休んでください。
周りにあなたをいっぱい心配してくれる人がいるんですから・・・。
私もファンの一人です。お大事に!!
しなければ、怒りますよ!!
なんとノンフィクションが綴られていて驚きました!
何よりもお大事に^^またお会いしましょう

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